― 一緒に行こう、こんなところにいないで、一緒に。




毎日毎日疎まれて、殴られて。
そんな俺にそう言った奴は、キラキラと輝く太陽の光を受けて、
それ以上にまぶしく輝く明るい髪色をした人間だった。


俺でも、何か変わるんだろうか。

俺でも、人に愛されるんだろうか。




無意識に差し出された手を握った俺に、奴は、
眩しいくらいに笑った。






―If God dislikes ―

〝神に嫌われたら〟







ぼんやりと窓の外から聞こえてくる音に耳を傾けていると、俺の膝で眠っていたドンへがもぞもぞと動いて目を覚ます。
真っ白でだだっ広いこの部屋にあるのは、
無駄に大きいキングサイズのベットだけ。
二人で此処に住もうと言ったとき、ベット以外何もいらないと言ったのはドンへだった。

―何も感じたくないから。ヒョクチェ以外、何も。―

そう言ったドンへがあまりにも幸せそうに微笑むから、俺は頷くしかなかった。


身内を失っていじめられていた俺と、植菌を残して自殺した父親を恨みながら
体を売ってお金を稼いでいたドンへ。
俺たちが溶けあうのに時間なんてかからなかった。
一緒に行こうと手を差し出されたとき、その手を握ったのは間違いなんかじゃなかった。



「…ん…ひょ、く…?」

「おはよ、ドンへ」

「今…何時?」

「んー…十時くらい?まだ昼前だと思う。」

「ひる、まえ…暗くない?外、」

「雨が降ってるんだよ。午後からは雷って天気予報で言ってた。」

「じゃああと二時間後か…」

「ん、ホントに十時か分かんないけど」




この家には時計もない。
ドンへは時がたつのを酷く嫌っていた。
だから唯一の情報は携帯でどうにかなっているけど、充電器もない。
ドンへは充電を許さない。俺以外見ないで、俺以外感じないで、と。
俺はいつだってドンへしか見ていない。ドンへしか感じていないのに。
どうしてドンへがそんなことを言うのか、俺には分からない。

でもそういうと、ドンへは壊れてしまうから。
ドンへはすぐ壊れる。壊れると大体、俺を散々殴った後、酷く痛く俺を抱く。
愛してるに愛してるを返さないと壊れて、名前を呼ばれて返事をしないと壊れる。
ドンへが分からないと言っても壊れて、
一人にされて、壊れる。


後悔なんてしていない。俺だってドンへを愛してる。
ドンへにだったら殴られたって痛くない。痛くないはずなのに、俺はいつも涙を流してしまう。

そうしたらドンへは、もっと壊れるのに。




「ね、ひょく、」

「ん…?」

「雨、降ってるんだっけ。」

「うん、どしゃぶり」



俺がそう言うと、ドンへはキュッと口角を上げた。
なんとなく背筋がゾクリとするけど、今はもうその感覚さえ愛おしい。



「ねえヒョク、外出ようよ」

「……そ、と?」

「うん、外に出よう。二人で。」

「でも、雨が…」

「雨だからだよ。一緒に雨にぬれたい。
なんなら、ヒョクと一緒に雨に溶けっちゃったっていいよ」

「ど、んへ…」

「ね、ひょく、だめ?ヒョクは嫌?俺と一緒は嫌?」



ね、だめ?と首を傾げて、甘い瞳でドンへが問いかける。
こうなるともうドンへはマイナス思考のループが止まらなくなる。
ああどうしよう、壊れちゃう。


ドンへには俺しかいない。俺には、ドンへしかいない。
ドンへは俺に、愛が欲しいという。ヒョクの愛が欲しいって。
俺は愛をあげているのに。これ以上愛をあげているのに、ドンへはいつもそう言う。

何が足りないんだろう。ドンへは、何が欲しいんだろう。
でも俺にはそれが分からないから、ただ、黙ってドンへの隣にいる事しかできないのだけれど。




「………外、いこっか、ドンへ」



ポツリと俺が呟くと、ドンへはふにゃりと整った顔を歪ませて笑った。

それにつられて頬を緩ませようとした時、そう言えば、
携帯で見た天気予報で、雷と共に台風接近中を告げていたことに気づく。




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